セーターの語源は「汗をかく人(sweater)」という驚きの雑学。ファッションがもっと楽しくなる話
セーターの語源は「汗をかく人(sweater)」という驚きの雑学。ファッションがもっと楽しくなる話
「セーターの語源は汗をかく人」という説、実は本当です。この記事を読めば、セーターが元々スポーツ選手の汗出し用の服だったという驚きの事実から、労働者の実用着を経てファッションアイテムへと変化した歴史が分かります。さらに、混同しがちな「ニット」との明確な違いや、カーディガン、ジーンズといった身近な服の面白い語源もあわせて解説。明日誰かに話したくなる雑学で、いつものファッションがもっと楽しくなります。
1. 本当だった セーターの語源は汗をかくための服
ふんわりと暖かく、秋冬のファッションに欠かせない「セーター」。多くの人が防寒着として愛用しているこの衣服の名前の由来が、「汗」に関係していると聞いたら驚くかもしれません。しかし、これは紛れもない事実です。セーターの語源は、その名の通り「汗をかくための服」だったのです。この章では、セーターという言葉が持つ意外なルーツとその背景を詳しく解説します。
1.1 英語の「sweat(汗)」が言葉のルーツ
セーター(sweater)の語源を理解する鍵は、英語の動詞「sweat(スウェット)」にあります。以下の表を見ていただくと、その関係が一目瞭然です。
構成要素 | 意味 | 解説 |
---|---|---|
sweat | 動詞:汗をかく 名詞:汗 |
言葉の核となる部分です。 |
-er | 「~する人」「~するためのもの」 | 動詞の後につくことで、行為者や道具を意味する接尾辞です。 |
sweater | 汗をかく人 汗をかかせるもの |
「sweat」と「-er」が組み合わさってできた言葉です。 |
このように、英語の構造から見ても「sweater」は、直訳すると「汗をかく人」や「汗をかかせるためのもの」という意味になります。「play(遊ぶ)」に「-er」がついて「player(選手)」になるのと同じ仕組みです。現在の暖かなファッションアイテムのイメージからは少し想像がつきにくいかもしれませんが、言葉の成り立ちが、セーターが元々持っていた役割を明確に示しています。
1.2 元々はスポーツ選手が汗をかくために着ていた
では、なぜ「汗をかくための服」と呼ばれていたのでしょうか。その答えは、セーターが誕生した当初の使われ方にあります。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、セーターは主にスポーツ選手がトレーニングやウォーミングアップの際に着用するウェアでした。特に、アメリカのボート選手やフットボール選手たちが、体を冷やさないように、そして効率的に汗をかくために厚手のウール製の上着を着用し始めました。これがセーターの原型です。
当時の目的は、体を温めて発汗を促し、トレーニング効果を高めたり、体重を調整したりすることにありました。体を温めて大量の汗(sweat)をかくために着る服だからこそ、「セーター(sweater)」と呼ばれるようになったのです。現代でいうところの「スウェットシャツ」が、まさにこの本来の役割に近い衣類と言えるでしょう。今ではおしゃれなアイテムとして定着したセーターが、かつてはアスリートたちのための機能的なトレーニングウェアだったという事実は、ファッションの歴史の面白さを物語っています。
2. 汗をかく服がファッションアイテムになるまでの歴史
今や冬のファッションに欠かせないセーターですが、そのルーツが「汗をかくための服」であったことは驚きです。では、実用一辺倒だったセーターは、どのようにしておしゃれなファッションアイテムへと華麗な変身を遂げたのでしょうか。その興味深い歴史を、時代を追って紐解いていきましょう。
2.1 労働者のための実用着として
セーターの原型は、厳しい自然環境で働く人々のための、まさに「命を守る服」でした。特に、海上での過酷な労働に従事する漁師たちにとって、その防寒性と機能性は不可欠なものでした。彼らが着ていたセーターは、現代の私たちが着るものとは少し異なり、機能性を最大限に追求した作業着だったのです。
2.1.1 イギリスやアイルランドの漁師が着たフィッシャーマンセーター
セーターの歴史を語る上で欠かせないのが「フィッシャーマンセーター」です。これは、イギリスやアイルランド、フランスのブルターニュ地方など、北大西洋の厳しい海で働く漁師(フィッシャーマン)たちが着ていた手編みのセーターの総称です。
最大の特徴は、羊毛に含まれる油分をあえて残した「未脱脂ウール」で編まれていること。これにより、水を弾き、冷たい海風を通しにくい、優れた防水・防寒機能を発揮しました。また、体にフィットしつつも動きを妨げない伸縮性も、船上での作業に適していました。
フィッシャーマンセーターの中でも特に有名なのが、アイルランドのアラン諸島を発祥とする「アランセーター」や、イギリスのガーンジー島を発祥とする「ガンジーセーター」です。
種類 | 発祥地 | 特徴 |
---|---|---|
アランセーター | アイルランド・アラン諸島 | 縄目模様(ケーブル編み)やハニカム模様など、立体的で複雑な編み模様が特徴。模様にはそれぞれ豊漁や安全への祈りといった意味が込められており、家紋のような役割も果たしていたと言われています。 |
ガンジーセーター | イギリス・ガーンジー島 | 固く、密に編まれており、非常に丈夫。前後対称のデザインになっていることが多く、暗い船内でも前後を気にせず着られるように工夫されていました。肩や脇に動きやすさを高めるためのマチ(ガゼット)が付いています。 |
これらのセーターが持つ、機能性から生まれた独特の美しいデザインは、後にファッションの世界に大きなインスピレーションを与えることになります。
2.2 上流階級のスポーツウェアへ
19世紀末から20世紀初頭にかけて、セーターは労働者の作業着というイメージから脱却し、新たなステージへと進出します。そのきっかけとなったのが、上流階級の間で流行したテニスやゴルフ、スキーといったスポーツでした。
当時のスポーツウェアはまだ動きにくいものが主流でしたが、セーターの持つ優れた伸縮性と保温性は、屋外で行うスポーツに最適だったのです。こうしてセーターは、アクティブな富裕層のレジャーウェアとして、新たな価値を見出されることになりました。
2.2.1 テニスやゴルフで愛用された背景
特にセーターをスポーツウェアとして定着させたのが、テニスやゴルフです。白いフランネルのパンツに、爽やかな白いセーターを合わせるスタイルは、当時のテニスプレーヤーやゴルファーの定番となりました。
中でも、Vネックの首元や袖口、裾にラインが入ったデザインの「チルデンセーター」は、テニスセーターとして一世を風靡しました。この名前は、1920年代に活躍した名テニスプレーヤー、ビル・チルデンが愛用したことに由来します。
汗を吸い取り、体を冷やさないという実用性に加え、そのクリーンで上品な見た目は、紳士のスポーツであったテニスやゴルフのイメージにぴったりでした。セーターは、労働者の服から、ステータスと洗練された趣味を象徴するアイテムへと生まれ変わったのです。
2.3 ファッションアイコンたちが火付け役に
セーターがスポーツシーンを飛び出し、日常のファッションアイテムとして広く大衆に受け入れられるまでには、時代を象徴するファッションアイコンたちの存在が不可欠でした。
その筆頭が、20世紀のファッションに革命を起こしたデザイナー、ココ・シャネルです。彼女は、それまで男性のものや下着に使われる素材であったジャージー素材を女性の日常着に取り入れたことで知られますが、セーターも同様に、シンプルで機能的なスタイルとして積極的に提案しました。彼女のスタイルは、女性を窮屈なコルセットから解放し、活動的な新しい女性像を打ち立てる象徴となりました。
また、男性ファッションにおいては、英国のウィンザー公(後の国王エドワード8世)の影響が絶大でした。彼は当時、世界で最もお洒落な男性として注目されており、彼がゴルフウェアとして伝統的なフェアアイル柄のセーターを着用したことで、世界的な大ブームが巻き起こったのです。プリンス・オブ・ウェールズという最高のファッションリーダーが着こなしたことで、セーターは英国紳士の洗練されたカジュアルウェアとして確固たる地位を築きました。
さらに時代は下り、1950年代のアメリカでは、名門大学の学生たちの間で流行した「アイビールック」の中心アイテムとしてセーターが定着。その後、マリリン・モンローやスティーブ・マックイーンといった映画スターたちがスクリーンやプライベートでセーターを魅力的に着こなしたことで、その人気は不動のものとなったのです。
このように、セーターは汗をかくための実用着から、労働者の作業着、上流階級のスポーツウェア、そして誰もがおしゃれを楽しむファッションアイテムへと、時代のニーズや文化を反映しながら、その姿を大きく変えてきたのです。
3. セーターとニットって何が違うの?意外と知らない言葉の意味
秋冬のファッションに欠かせない「セーター」と「ニット」。多くの方が同じような意味で使っているかもしれませんが、実はこの2つの言葉が指すものは全く異なります。この違いを知ると、お店でのアイテム探しやコーディネートがもっとスムーズで楽しくなりますよ。
結論から言うと、「ニット」という大きな枠組みの中に「セーター」という特定のアイテムが含まれている、という関係性になります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
3.1 セーターはアイテムの名前
「セーター(sweater)」とは、具体的な衣類の種類を指す名前です。一般的に、編み物(ニット)で作られたトップスのうち、前方に開きがなく、頭からかぶって着るタイプのものを指します。語源の章で触れたように、元々は汗をかくためのトレーニングウェアが原型です。
具体的には、以下のようなものがセーターに分類されます。
- クルーネックセーター
- Vネックセーター
- タートルネックセーター
- ケーブル編みセーター
一方で、同じニット製品でもカーディガンやニットベスト、ニットジャケットのように前が開くデザインのものは、厳密には「セーター」とは区別されます。セーターはあくまで「かぶって着るニット製トップス」という、特定の形状を持ったアイテムの名称なのです。
3.2 ニットは編み物の総称
一方、「ニット(knit)」とは、衣類のアイテム名ではなく、1本の糸でループ(輪)を作り、そのループに糸を引っ掛けながら編み上げられた生地(編み物)や、その生地で作られた製品全体の総称です。英語の「knit(編む)」という動詞が語源になっています。
織物(fabric)が縦糸と横糸を交差させて作るのに対し、ニットはループで構成されているため、伸縮性が高く、シワになりにくいという特徴があります。この製法で作られたものであれば、すべて「ニット製品」と呼ぶことができます。
そのため、ニットにはセーター以外にも非常に多くのアイテムが含まれます。
- カーディガン
- ニットワンピース
- ニットスカート
- マフラー、手袋、帽子
- 靴下
つまり、「ウールのセーター」は正しい表現ですが、「セーターのニット」という言い方は少し不自然です。「ウール素材のニット生地で作られたセーター」というのが最も正確な表現になります。
この2つの言葉の違いを、以下の表で整理してみましょう。
セーター (Sweater) | ニット (Knit) | |
---|---|---|
分類 | 衣類のアイテム名 | 生地の製法・総称 |
意味 | ニット生地で作られた、頭からかぶって着るタイプのトップス。 | 1本の糸をループ状に編んで作られた生地、またはその製品全般。 |
具体例 | Vネックセーター、タートルネックセーターなど。 | セーター、カーディガン、マフラー、手袋、帽子、靴下など。 |
このように、セーターは数あるニット製品の中の一つに過ぎません。これからはお店で「何か暖かいニットが欲しいな」と考えたとき、それが「セーター」なのか、「カーディガン」なのか、あるいは「ニットワンピース」なのかを意識してみると、より明確なイメージでお気に入りの一着を見つけられるはずです。
4. まだある 面白い語源を持つファッションアイテム雑学
セーターの語源を知ると、普段何気なく着ている洋服への見方が少し変わりませんか?実は、私たちのクローゼットの中には、セーター以外にも意外な歴史やストーリーを持つファッションアイテムがたくさんあります。ここでは、知ると誰かに話したくなる、面白い語源を持つファッションアイテムの雑学を3つご紹介します。
4.1 カーディガンは人の名前だった
秋冬の定番アイテムであるカーディガン。この名前が、実は19世紀に活躍したイギリスの軍人の名前に由来することをご存知でしょうか。
その人物とは、クリミア戦争で名を馳せた第7代カーディガン伯爵、ジェイムズ・ブルデネルです。彼は戦場で、負傷した兵士でも簡単に着脱できるように、保温性の高いウールのセーターを前開きにし、ボタンを付けたものを考案しました。これがカーディガンの原型です。
元々は軍服の下に着るアンダーウェアとして生まれましたが、その実用性とデザイン性が評価され、やがてファッションアイテムとして一般に広まっていきました。伯爵の名前がそのままアイテム名として定着した、まさに歴史から生まれた一着なのです。
4.2 ジーンズの由来はイタリアの港町
カジュアルファッションに欠かせないジーンズ。この「ジーンズ」という言葉は、イタリアの港町「ジェノバ」がルーツになっています。
15世紀頃、ジェノバの船乗りたちは、丈夫な綾織りの綿生地で作られた作業用のズボンを愛用していました。この「ジェノバ産」の生地やズボンがフランスに渡った際、フランス語で「ジェノバの」を意味する「Gênes(ジェーヌ)」と呼ばれます。そして、この「ジェーヌ」という言葉が英語圏に伝わり、発音が訛って「ジーンズ(Jeans)」になったと言われています。
ちなみに、ジーンズと混同されがちな「デニム」にも別の語源があります。こちらはフランスの「ニーム地方」が由来。「ニーム産(de Nîmes)」が「デニム(denim)」の語源です。それぞれの言葉のルーツをまとめると、以下のようになります。
言葉 | 由来となった場所 | 元々の意味 |
---|---|---|
ジーンズ (Jeans) | イタリアのジェノバ (Genoa) | ジェノバ産の生地・ズボン |
デニム (Denim) | フランスのニーム (Nîmes) | ニーム産の生地 |
ジーンズというアイテムそのものは、19世紀アメリカのゴールドラッシュ時代に、リーバイ・ストラウスが鉱夫のための頑丈なワークパンツとして開発したものですが、その名前のルーツは遠くヨーロッパの港町にあったのです。
4.3 YシャツはなぜY?聞き間違いから生まれた言葉
ビジネスシーンから普段着まで幅広く使われるYシャツ。襟の形がアルファベットの「Y」に似ているからだと思っている方も多いかもしれませんが、実はそれは間違いです。
Yシャツの本当の語源は、英語の「ホワイトシャツ(White shirt)」です。明治時代に日本へ洋装文化が入ってきた際、ネイティブの「ホワイトシャツ」という発音が、当時の日本人には「ワイシャツ」と聞こえたことから、この呼び名が定着しました。つまり、Yシャツは完全な和製英語なのです。
そのため、海外で「Y-shirt」と言っても全く通じません。もし英語で表現する場合は、ドレスシャツ(dress shirt)や、単にシャツ(shirt)と呼ぶのが一般的です。私たちの生活に深く根付いている言葉が、実はシンプルな「聞き間違い」から生まれていたというのは、とても興味深い話ですね。
5. まとめ
セーターの語源が「汗をかく人(sweater)」というのは事実で、元々はスポーツ選手が汗をかくために着用した服でした。それがイギリスの漁師たちの仕事着や、上流階級のスポーツウェアとして広まり、やがてファッションアイテムとして定着した歴史を解説しました。また、セーターとニットの違いや、カーディガンやジーンズといった他のファッションアイテムの面白い語源も紹介しました。普段何気なく着ている服の背景を知ることで、日々のファッションがより一層楽しくなるはずです。