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なぜ繊維リサイクル率は日本全体で約30%にとどまるのか?私たちが明日からできる5つのこと

なぜ繊維リサイクル率は日本全体で約30%にとどまるのか?私たちが明日からできる5つのこと

日本の繊維リサイクル率が約30%と低い現状をご存知ですか?その背景には、技術・コストの問題、ファストファッションの普及、そして回収システムの不備という3つの大きな理由があります。この記事では、年間50万トン以上の衣類が廃棄される課題を分かりやすく解説し、現状を変えるために私たちが明日からできる5つの具体的なアクションを提案します。服との付き合い方を見直し、サステナブルな選択をするためのヒントが得られます。

1. 日本の繊維リサイクル率の現状と課題

私たちの生活に欠かせない衣類。しかし、その多くがリサイクルされずに廃棄されているという事実をご存知でしょうか。現在、日本国内における繊維製品のリサイクル率は、リユース(古着としての再利用)を含めても約34%にとどまっています。これは、手放された衣類の実に3分の2近くが、有効活用されることなくごみとして処分されていることを意味します。この章では、まず日本の繊維リサイクルが直面している厳しい現状と、その背景にある課題を具体的なデータと共に詳しく見ていきましょう。

1.1 年間50万トン以上が焼却・埋め立て処分されている事実

環境省の調査によると、2020年に日本国内で家庭などから手放された衣類は年間で約51万トンにものぼります。このうち、リユースされるのは約15%、マテリアルリサイクル(工業用ウエスや反毛材などへの再資源化)やサーマルリサイクル(焼却による熱エネルギー回収)を含めたリサイクルはわずか約19%です。残りの約66%にあたる約33万トンは、そのまま焼却または埋め立て処分されています。

この廃棄量を1日あたりに換算すると、約900トン以上。これは大型トラック約180台分に相当する量の衣類が、毎日ごみとして捨てられている計算になります。こうした大量廃棄は、焼却時のCO2排出による地球温暖化の促進や、埋立地の逼迫、化学繊維のマイクロプラスチック問題など、深刻な環境負荷を引き起こす大きな要因となっています。

国内における衣類の供給と処分の内訳(2020年推計)
項目 重量(トン/年) 割合 備考
国内新規供給量 約82万トン 100% 輸入品が大部分を占める
手放される量 約51万トン - 家庭からの排出が主
リユース(古着流通) 約7.5万トン 約15% 国内・海外での古着として再着用
リサイクル(再資源化) 約9.5万トン 約19% ウエス、反毛材、燃料など
焼却・埋め立て 約33万トン 約66% 有効活用されず廃棄される量

※環境省「ファッションと環境」調査結果等をもとに作成

1.2 海外と比較して低い日本のリサイクル率

日本の繊維リサイクル率は、環境先進国である欧米諸国と比較しても低い水準にあります。例えば、ドイツでは古着の回収率が70%を超え、その多くがリユース・リサイクルされています。また、フランスでは2022年から売れ残り衣料品の廃棄を禁止する法律が施行されるなど、国を挙げた強力な対策が進められています。

これらの国々では、法律による規制強化だけでなく、市民に根付いたチャリティショップへの寄付文化や、自治体による効率的な回収システムの整備が進んでいます。一方で、日本では法的な枠組みや社会システムがまだ追いついておらず、消費者の善意や一部企業の努力に依存しているのが現状です。アパレル産業のサステナビリティが世界的な潮流となる中、日本の取り組みは国際的に見ても遅れをとっていると言わざるを得ません。

繊維リサイクルに関する各国の取り組み比較
国名 特徴的な取り組み
ドイツ 高い古着回収率(70%以上)。自治体と民間が連携した効率的な回収システム。
フランス 売れ残り製品の廃棄を禁止する「廃棄物対策・循環経済法」を施行。拡大生産者責任(EPR)制度が確立。
イギリス チャリティショップ文化が根付いており、国民のリユース意識が高い。
日本 リユース・リサイクル率は約34%。回収は自治体や事業者に委ねられ、全国統一のシステムがない。

2. 繊維リサイクル率が約30%にとどまる3つの大きな理由

日本の繊維リサイクル率が約30%という低い水準にとどまっている背景には、単一の原因ではなく、技術、社会、そして私たち自身の意識という、複雑に絡み合った3つの大きな理由が存在します。ここでは、なぜ多くの衣類がリサイクルされずに捨てられてしまうのか、その構造的な問題を深掘りしていきます。

2.1 理由1 技術的・コスト的な課題

まず大きな壁となっているのが、リサイクル技術の限界と、それに伴うコストの問題です。たとえリサイクルしたいという意志があっても、現在の技術と経済的な制約がそれを困難にしています。

2.1.1 混合素材の分別が難しい

現代の衣類の多くは、着心地や機能性を高めるために、綿とポリエステル、あるいはポリウレタンといった複数の素材を組み合わせて作られています。例えば、ストレッチ性のあるTシャツやジーンズなどがその典型です。しかし、この複数の素材が混ざり合った「混紡繊維」を、素材ごとに分離する技術はまだ発展途上であり、実用化されている方法は非常に限定的です。手作業で素材を見分けることはほぼ不可能であり、自動で選別する機械もまだ普及していません。さらに、衣類にはファスナーやボタン、プリントといった付属品も付いており、これらもリサイクルの障壁となります。結果として、多くの混紡繊維製品は効率的なリサイクルができず、焼却や埋め立て処分へと回されてしまうのです。

2.1.2 リサイクル繊維の品質とコストの問題

仮に素材を分別できたとしても、次に品質とコストの壁が立ちはだかります。繊維をリサイクルする過程で、どうしても繊維が短くなったり、強度が落ちたりと、品質が劣化してしまうことがあります。特に、古着を綿に戻して再び糸にする「マテリアルリサイクル」では、この品質低下が避けられません。そのため、新しい製品(バージン素材)と同等の品質を保つのが難しくなります。一方で、化学的に繊維を再生する「ケミカルリサイクル」は高品質な再生が可能ですが、大規模な設備が必要でコストが非常に高くなります。その結果、リサイクル繊維は新品のバージン繊維よりも高価になることが多く、アパレル企業が積極的に採用しにくいという経済的なジレンマが生まれています。これが、リサイクル繊維が市場に広まらない大きな要因の一つです。

バージン繊維とリサイクル繊維の比較
項目 バージン繊維(新品) リサイクル繊維(再生品)
品質・強度 安定しており、高い品質を保ちやすい リサイクル手法により品質が変動し、強度が低下する場合がある
コスト 比較的安価で安定供給が可能 回収・選別・再生プロセスにコストがかかり、割高になる傾向がある
環境負荷 石油などの資源を大量に消費し、CO2排出量も多い 資源の消費を抑え、CO2排出量を削減できるが、再生プロセスでエネルギーを消費する
供給の安定性 安定している 回収される古着の量や質に左右され、不安定になりがち

2.2 理由2 ファストファッションの普及と消費行動

技術的な課題に加え、私たちの衣服に対する考え方や消費行動の変化も、リサイクル率の低迷に大きく影響しています。特に、ファストファッションの普及は、衣類ごみの増加を加速させる一因となりました。

2.2.1 大量生産・大量消費のサイクル

ファストファッションは、最新のトレンドを反映した衣類を、驚くほど低価格かつ短いサイクルで市場に提供します。これにより、私たちは気軽に新しい服を手に入れられるようになりました。しかしその裏側では、「安く買って、流行遅れになったら捨てる」という大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルが定着してしまいました。衣類が「長く大切に使うもの」から「手軽に消費するもの」へと変化したことで、一着あたりの着用回数が減少し、家庭から排出される衣類の総量が爆発的に増加したのです。

2.2.2 衣服の短命化

低価格を実現するために、素材の品質や縫製の耐久性を抑えた製品が増えていることも問題です。数回の着用や洗濯で型崩れしたり、生地が傷んだりしてしまう衣類は、たとえデザインが気に入っていても長く着続けることができません。このような「短命化」した衣服は、まだ着られる状態であっても捨てられやすく、また、品質の低さから古着として再利用(リユース)することも難しくなります。リユース市場にも回せない低品質な衣類が増えたことで、最終的に廃棄されるしかない衣類の割合が高くなっているのです。

2.3 理由3 回収システムの不備と消費者意識

生産や消費の段階だけでなく、私たちが服を手放す「廃棄」の段階にも課題が潜んでいます。リサイクルしたくても、その受け皿となる社会システムが十分に整っておらず、消費者の知識も不足しているのが現状です。

2.3.1 自治体による回収のばらつき

家庭から出る古着の回収ルールは、全国の自治体で統一されていません。「資源ごみ」として分別回収している自治体もあれば、「可燃ごみ」や「不燃ごみ」としてしか受け付けていない自治体もあります。また、資源ごみとして回収していても、その後の活用方法(リサイクルかリユースか、あるいは焼却か)は自治体によって様々です。このように住んでいる地域によってルールがバラバラなため、消費者は混乱しやすく、正しい分別方法が浸透しにくい状況にあります。引越しをした際に、以前のルールでごみを出してしまうといったケースも少なくありません。

自治体による古着回収方法の違い(例)
自治体 回収区分 回収方法 注意点
A市 資源ごみ(古布) 月2回、指定の集積所で回収 透明な袋に入れる。汚れたもの、濡れたものは不可。
B区 可燃ごみ 週2回、通常の可燃ごみとして排出 資源としての回収は行っていない。
C町 拠点回収のみ 公共施設に設置された回収ボックスに投入 回収ボックスの設置場所や時間が限られる。

2.3.2 どこでリサイクルできるか分からない

自治体の回収以外にも、アパレル企業が店舗に設置している回収ボックスや、NPO団体への寄付など、衣類をリサイクル・リユースに出す方法はいくつか存在します。しかし、これらの選択肢があること自体が、多くの消費者に知られていません。「この服、まだ着れるけどどこに持っていけばいいんだろう?」と考えた結果、調べるのが面倒になり、結局は手軽な可燃ごみとして捨ててしまう人が後を絶たないのです。リサイクルへの関心はあっても、具体的な行動に移すための分かりやすい情報や手軽な手段が不足していることが、貴重な資源がごみとなってしまう最後の引き金になっています。

3. 明日からできるアクションプラン 私たちが取り組める5つのこと

繊維リサイクル率が約30%という厳しい現実。しかし、この状況は私たち一人ひとりの日々の選択と行動によって変えていくことができます。環境問題やサステナビリティへの貢献は、決して難しいことばかりではありません。ここでは、誰でも今日から、そして明日からすぐに実践できる5つの具体的なアクションプランをご紹介します。

3.1 今ある服を長く大切に着る

最もシンプルで効果的なアクションは、今持っている衣服をできるだけ長く、大切に着ることです。新しい服を生産するエネルギーや資源を節約し、廃棄される衣類の量を直接的に減らすことができます。これは、リサイクルやリユース以前の、最も重要な環境配慮です。

具体的には、洗濯表示をしっかり確認し、素材に合った正しい方法で洗濯・手入れをすることが基本です。ニットは手洗いする、デリケートな素材は洗濯ネットに入れるといった小さな工夫が、服の寿命を大きく延ばします。また、ボタンが取れたり、少しほつれたりした時に自分で修繕する習慣をつけることも大切です。愛着のある一着を自分の手で直すことで、さらに大切にしようという気持ちが芽生えるでしょう。着こなしを工夫してコーディネートの幅を広げることも、一着の服と長く付き合うための楽しみ方の一つです。

3.2 購入する時は素材と長く着られるかを考える

衣服を購入する「入口」の段階で意識を変えることも、繊維ごみを減らす上で非常に重要です。衝動買いやセールでのまとめ買いを一度立ち止まって考え、本当に必要で、長く愛用できる一着かを見極める視点を持ちましょう。

購入時には、デザインだけでなく素材にも注目してみてください。綿(コットン)や麻(リネン)、毛(ウール)といった天然素材や、ポリエステル単一素材など、リサイクルしやすい単一素材でできた製品を選ぶことは、将来的な環境負荷を低減させる選択です。また、流行に左右されないベーシックなデザイン、縫製がしっかりしていて丈夫なもの、着心地が良いものを選ぶことで、自然と着用回数は増え、結果的に長く着続けることができます。「安物買いの銭失い」ではなく、少し価格が高くても質の良いものを長く使うという価値観が、サステナブルなファッションにつながります。

3.3 手放す時はリユースを第一に検討する

サイズが合わなくなったり、デザインが好みでなくなったりして、まだ着られる状態の服を手放す際は、ごみとして捨てる前に「リユース(再利用)」を第一に考えましょう。リユースは、服をそのままの形で次の人に使ってもらうため、リサイクルのようにエネルギーを消費して再資源化する必要がなく、環境への負荷がより低い方法です。

3.3.1 フリマアプリやリユースショップの活用

近年、フリマアプリやリユースショップ(古着買取店)の市場は大きく成長しており、手軽に服をリユースに出せる環境が整っています。それぞれの特徴を理解して、自分に合った方法を選びましょう。

方法 主なサービス例 メリット デメリット
フリマアプリ メルカリ、ラクマ、PayPayフリマなど ・自分で価格設定ができる
・リユースショップより高値で売れる可能性がある
・写真撮影、出品、梱包、発送の手間がかかる
・すぐに売れるとは限らない
リユースショップ セカンドストリート、トレジャーファクトリー、ブックオフなど ・店舗に持ち込むだけ、または宅配で送るだけで手軽
・その場で現金化できることが多い
・買取価格はフリマアプリより低い傾向にある
・状態やブランドによっては買取不可の場合もある

まだ十分に価値のある衣服を次の使い手につなぐことで、廃棄物を減らし、ささやかな収入にもなる可能性があります。

3.3.2 知人への譲渡や寄付

金銭的なやり取りを目的としない方法として、友人や親戚、地域のコミュニティで譲り合うことも素晴らしいリユース活動です。また、NPO法人や支援団体などを通じて、国内外で衣類を必要としている人々へ寄付することもできます。ただし、寄付する際は、相手が本当に必要としているものか、洗濯済みで清潔な状態かを確認するという配慮が不可欠です。独りよがりな寄付はかえって相手の負担になる場合もあるため、団体のウェブサイトなどで受け付けている衣類の種類や条件を必ず確認しましょう。

3.4 企業の古着回収サービスを積極的に利用する

多くのファッションブランドやアパレル企業が、サステナビリティ活動の一環として、自社店舗で古着の回収を行っています。これらの回収ボックスを積極的に利用することも、私たち消費者が手軽にできるリサイクル・リユース活動です。

3.4.1 ユニクロや無印良品などの回収ボックス

ショッピングのついでに、不要になった衣類を店舗に設置された回収ボックスに入れるだけで、リサイクルやリユースのサイクルに参加できます。企業によって回収対象の製品や、回収後の活用方法が異なります。

企業名 回収プログラム名 回収対象 回収後の活用方法(一例)
ユニクロ / ジーユー RE.UNIQLO ユニクロ、ジーユーで販売した全商品 難民キャンプなどへの衣料支援(リユース)、固形燃料や防音材への加工(リサイクル)
無印良品 服の回収 無印良品の衣料品全般(下着・靴下除く) 染め直して再販売(ReMUJI)、バイオエタノール生産などに活用(リサイクル)
H&M 古着回収サービス ブランドや状態を問わず、すべての衣料品 古着として販売(リユース)、清掃用品などにリメイク、繊維レベルでリサイクル

これらの企業の取り組みは、ブランドを問わず回収してくれる場合もあり、非常に便利です。お近くの店舗に回収ボックスがあるか、ぜひ一度確認してみてください。

3.5 自治体のルールに沿って正しく分別する

リユースが難しく、企業の回収にも出せない衣類は、最終的に自治体のごみ回収に出すことになります。その際、決して「燃えるごみ」として捨ててしまわないでください。多くの自治体では、衣類を「古着・古布」として資源ごみの日に回収しています。

回収された古着・古布は、たとえ汚れていたり破れていたりしても、工業用のウエス(機械の油などを拭き取る布)や自動車の内装材(断熱材・防音材)などにマテリアルリサイクルされる貴重な資源です。「もう着られないから燃えるごみ」と決めつけず、お住まいの自治体が定める分別ルールに従って正しく出すことが、繊維リサイクル率を少しでも向上させるための最後の砦となります。回収日や出し方(透明な袋に入れる、紐で縛るなど)の詳細は、自治体のホームページやごみ分別アプリなどで必ず確認し、ルールを守って資源回収に協力しましょう。

4. まとめ

日本の繊維リサイクル率が約30%と低い水準にある背景には、混合素材の分別といった技術的な課題、ファストファッションの普及による大量消費、そして自治体ごとに異なる回収システムという3つの大きな理由があります。しかし、私たち消費者が意識を変え、今ある服を長く大切に着たり、手放す際にフリマアプリやユニクロなどの企業の回収サービスを利用したりすることで、この現状は変えられます。明日からできる一つひとつの選択が、持続可能な社会の実現につながるのです。