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あなたの衣類も原因?洗濯によるマイクロプラスチック問題とは。今日からできる簡単な防止策

あなたの衣類も原因?洗濯によるマイクロプラスチック問題とは。今日からできる簡単な防止策

普段の洗濯が、実はマイクロプラスチック汚染の大きな原因の一つであることをご存知ですか?この記事では、洗濯とマイクロプラスチック問題の深刻な関係、衣類からの発生メカニズム、環境や健康への影響、そして私たちにできる具体的な防止策を徹底解説。今日から実践できる簡単な工夫で、問題解決に貢献する方法がわかります。

1. はじめに 洗濯とマイクロプラスチック問題の深刻な関係

私たちの暮らしに欠かせない「洗濯」。清潔で快適な毎日を送るために行うこの日常的な行為が、実は地球規模の環境問題であるマイクロプラスチック汚染と深く結びついていることをご存知でしょうか。近年、海洋汚染の深刻な原因の一つとしてマイクロプラスチックが注目されていますが、その発生源は多岐にわたります。そして、意外にも私たちの家庭で行われる洗濯が、その主要な発生源の一つとなり得るのです。

1.1 私たちの日常に潜むマイクロプラスチック問題

マイクロプラスチックとは、大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子のことです。これらは、製造時から小さく作られたもの(一次マイクロプラスチック)と、大きなプラスチック製品が紫外線や波の力で劣化・破砕して細かくなったもの(二次マイクロプラスチック)に大別されます。私たちの身の回りには、化粧品に含まれるスクラブ剤や、工業用研磨剤として利用されるマイクロビーズのような一次マイクロプラスチックが存在し、また、ペットボトルやレジ袋などが自然環境で分解されずに細かくなった二次マイクロプラスチックも広範囲に存在しています。

この「見えない脅威」とも言えるマイクロプラスチックは、海や川、土壌、さらには大気中からも検出されており、生態系への影響はもちろん、私たちの健康への影響も懸念され始めています。そして、この問題に、日々の洗濯が大きく関わっているのです。

1.2 なぜ「洗濯」が注目されるのか?

衣類の多く、特にスポーツウェアやフリース、合成繊維製のセーターなどには、ポリエステルやナイロン、アクリルといった化学繊維が使われています。これらの衣類を洗濯すると、摩擦によって繊維が抜け落ち、微細なプラスチック繊維(マイクロファイバー)となって排水とともに流れ出てしまうのです。これらのマイクロファイバーは非常に小さいため、多くの場合、下水処理施設で完全には除去されず、河川や海へと流れ込み、環境中に蓄積されていきます。

一回の洗濯で排出されるマイクロファイバーの量は、衣類の素材や洗濯方法によって異なりますが、決して少なくありません。世界中で毎日行われる膨大な量の洗濯を考えると、そこから排出されるマイクロプラスチックの総量は、地球環境にとって無視できないレベルに達していると言えるでしょう。この問題の深刻さについて、環境省も注意喚起を行っています。詳しくは環境省の海洋ごみに関する発表や、プラスチックを取り巻く国内外の状況に関する資料もご参照ください。

1.3 この記事でわかること:問題の理解から具体的な対策まで

この記事では、「洗濯によるマイクロプラスチック問題」について、その基礎知識から、環境や健康への影響、そして私たち一人ひとりが今日から実践できる具体的な防止策まで、網羅的に解説していきます。具体的には、以下の内容を掘り下げていきます。

  • マイクロプラスチックとは何か、その基本的な知識
  • なぜ洗濯がマイクロプラスチックを発生させるのか、そのメカニズム
  • 特に問題となる化学繊維の種類と特徴
  • 洗濯から出るマイクロプラスチックが環境や健康に与える影響
  • 私たちがどれだけのマイクロプラスチックを排出しているのか、その現状
  • 洗濯方法の見直しや衣類の選び方など、家庭でできる具体的な対策
  • 企業や行政の取り組み状況と今後の展望

この問題を正しく理解し、日々の生活の中で少しでも環境負荷を低減するためのヒントを見つけていただければ幸いです。私たちの小さな行動が、未来の地球環境を守る大きな一歩につながるかもしれません。

2. 洗濯によるマイクロプラスチック問題とは何か?

私たちの日常生活に欠かせない「洗濯」。しかし、その洗濯という行為が、実は深刻な環境問題である「マイクロプラスチック問題」と深く結びついていることをご存知でしょうか。この章では、まず「洗濯によるマイクロプラスチック問題」の基本的な知識と、なぜ洗濯がマイクロプラスチックを発生させてしまうのか、そのメカニズムについて詳しく解説します。

2.1 マイクロプラスチックの基礎知識

マイクロプラスチックとは、大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子のことを指します。これらは、その発生原因によって大きく二つの種類に分けられます。

種類 説明 具体例
一次マイクロプラスチック 製品に意図的に微細なサイズで配合・製造されたプラスチック 洗顔料や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズ(現在は多くの国で規制が進んでいます)、工業用研磨剤など
二次マイクロプラスチック 大きなプラスチック製品が自然環境下で紫外線や物理的な力によって劣化・破砕し、細かくなったもの ペットボトルやレジ袋の破片、漁網の断片、そして洗濯によって衣類から抜け落ちる合成繊維(マイクロファイバー)など

洗濯によって発生するマイクロプラスチックは、主に後者の「二次マイクロプラスチック」に分類されるマイクロファイバーです。これらは非常に小さいため、現在の一般的な排水処理施設では完全に取り除くことが難しく、河川や海へと流出してしまうことが国際的な問題として認識されています。環境省の報告によれば、東京湾のマイクロプラスチックの7割以上が繊維状であったとの調査結果もあります(環境省 海洋ごみ実態把握調査の結果について(令和3年度))。

2.2 なぜ洗濯がマイクロプラスチックを発生させるのか

では、なぜ日常的な洗濯行為がマイクロプラスチックを発生させてしまうのでしょうか。その主な原因は、洗濯時の物理的な作用によって衣類から繊維が抜け落ちるためです。

具体的には、以下の要因が複合的に絡み合っています。

  • 衣類同士の摩擦:洗濯槽の中で衣類が互いに擦れ合うことで、繊維が摩耗し、細かく切れてしまいます。
  • 洗濯槽との摩擦:衣類が洗濯槽の壁や攪拌翼(パルセーター)と接触することでも摩擦が生じます。
  • 水流の力:洗濯やすすぎの際の強い水流が、繊維を引き抜いたり、ちぎったりする原因となります。特に高速回転する脱水時には大きな力がかかります。
  • 洗剤の化学的作用:洗剤の種類や成分によっては、繊維の結合を弱め、抜けやすくする可能性があります。ただし、この点についてはさらなる研究が必要です。
  • 水温:高温での洗濯は、特に一部の化学繊維の劣化を早め、繊維がもろくなり抜けやすくなることがあります。

これらの作用により、衣類、特に化学繊維でできた衣類から1回の洗濯で数万本から数百万本ものマイクロファイバーが抜け落ちるという研究報告もあります。これらのマイクロファイバーは非常に軽くて小さいため、洗濯排水とともに下水処理施設へ運ばれますが、その多くは除去されずに環境中へ排出されてしまうのです。

2.3 特に問題となる衣類の素材 化学繊維について

洗濯時にマイクロプラスチック(マイクロファイバー)を排出しやすい衣類の素材として、特に注目されているのが「化学繊維(合成繊維)」です。化学繊維は、石油などを原料として化学的に合成された繊維で、耐久性、速乾性、形態安定性、安価であることなど多くの優れた機能を持つため、私たちの衣類の多くに使用されています。

しかし、天然繊維(綿や麻、ウールなど)と比較して、化学繊維は洗濯時の摩擦や物理的な力によって繊維が細かく切れやすく、マイクロファイバーとして流出しやすい傾向があることが国内外の研究で指摘されています。これは、繊維の構造や強度、製造方法などが影響していると考えられています。

2.3.1 ポリエステルやナイロンなどの代表的な素材

化学繊維の中でも、特にマイクロプラスチックの排出源として問題視されている代表的な素材には以下のようなものがあります。これらの素材は、私たちの身の回りの多くの製品に使われています。

素材名 主な用途例 マイクロファイバー排出との関連性
ポリエステル (PET) フリース、スポーツウェア(ジャージ、Tシャツ)、ワイシャツ、ブラウス、スーツ、カーテン、寝具(布団カバー、シーツ)、ぬいぐるみ、エコバッグなど 世界で最も生産量が多く、広く使用されている化学繊維の一つであり、洗濯によるマイクロファイバーの排出量が多いと報告されています。特に起毛加工されたフリース素材は、繊維が抜け落ちやすい傾向があります。
ナイロン (ポリアミド) ストッキング、タイツ、靴下、アウトドアウェア(レインウェア、ウィンドブレーカー)、スポーツウェア、水着、バッグ(リュックサック、エコバッグ)、カーペット、漁網など 強度が高く摩擦に強い反面、洗濯によって微細な繊維が脱落しやすい素材です。特に薄手の生地や経年劣化した製品で繊維の脱落が顕著になることがあります。
アクリル セーター、ニット製品(カーディガン、マフラー、手袋)、毛布、靴下、カーペット、人工毛皮(フェイクファー)、ぬいぐるみなど 羊毛に似た風合いを持ち、保温性に優れていますが、洗濯時の摩擦で毛玉(ピリング)ができやすく、その過程で多くのマイクロファイバーを放出することが知られています。他の化学繊維と比較しても排出量が多いという報告もあります。
ポリウレタン (スパンデックス) ストレッチ素材の衣類全般(スポーツウェア、ヨガウェア、下着、水着、ジーンズ、スキニーパンツなど)、伸縮性のある医療用サポーターなど 伸縮性に富むため多くの衣類に他の繊維と混紡されて使用されています。ポリウレタン自体が微細な繊維として抜け落ちるほか、混紡されている他の繊維の脱落を助長する可能性も指摘されています。

これらの化学繊維は、私たちの生活に快適さや機能性、そして手頃な価格をもたらしてくれる一方で、洗濯を通じてマイクロプラスチックを環境中に排出してしまうという、見過ごせない側面も持っています。衣類を選ぶ際には、デザインや価格だけでなく、どのような繊維で作られているかを素材表示(品質表示タグ)で確認することが、この問題への意識を高め、解決に向けた行動を始めるための重要な第一歩となります。

3. 洗濯から出るマイクロプラスチックが引き起こす環境と健康への影響

私たちが毎日行っている洗濯が、知らず知らずのうちに環境や私たちの健康に影響を及ぼしている可能性があります。洗濯によって衣類から抜け落ちるマイクロプラスチックは、自然界に放出されるとさまざまな問題を引き起こすことが懸念されています。ここでは、その具体的な影響について詳しく見ていきましょう。

3.1 海洋汚染と生態系への深刻なダメージ

洗濯排水に含まれるマイクロプラスチックの多くは、下水処理施設で完全には除去されず、河川を通じて最終的に海洋へと流れ着きます。海に到達したマイクロプラスチックは、その小ささゆえに広範囲に拡散し、深刻な海洋汚染を引き起こします。

これらのマイクロプラスチックは、海洋生物にとって大きな脅威となります。具体的には以下のような影響が報告されています。

  • 誤食による物理的ダメージ: 動物プランクトンや小型甲殻類などの小さな生物が、餌と間違えてマイクロプラスチックを摂取してしまいます。これにより、消化器官が傷ついたり、満腹感によって摂食行動が阻害されたりすることで、栄養不足や成長不良を引き起こす可能性があります。
  • 有害化学物質の媒体となる可能性: マイクロプラスチックは、海水中に存在するPCB(ポリ塩化ビフェニル)やDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)といった残留性有機汚染物質(POPs)を吸着しやすい性質を持っています。これらの有害物質を吸着したマイクロプラスチックを海洋生物が摂取することで、生物の体内に有害物質が取り込まれ、濃縮されていく危険性があります。
  • 生態系ピラミッドへの影響: マイクロプラスチックを摂取したプランクトンや小魚を、より大きな魚や海鳥、海洋哺乳類が捕食することで、食物連鎖を通じてマイクロプラスチックとそれに付着した有害物質が上位の生物へと移行し、蓄積していきます。これにより、海洋生態系全体のバランスが崩れる恐れがあります。例えば、繁殖能力の低下や免疫力の低下などが懸念されています。

3.2 食物連鎖を通じた人体への影響の懸念

海洋生態系に蓄積されたマイクロプラスチックは、食物連鎖を通じて最終的に私たちの食卓にものぼる可能性があります。私たちが日常的に食べている魚介類にも、マイクロプラスチックが含まれていることが国内外の研究で明らかになってきています。

では、マイクロプラスチックを摂取することで、私たちの健康にどのような影響があるのでしょうか。この点については、現時点では人体への具体的な健康被害について、科学的に明確な結論は出ていません。しかし、いくつかの懸念点が指摘されており、世界中で研究が進められています。

懸念される主なポイントは以下の通りです。

  • 物理的な刺激: 摂取されたマイクロプラスチックが消化器官を物理的に刺激し、炎症などを引き起こす可能性が考えられます。特に、ナノメートルサイズ(1マイクロメートルの1000分の1以下)のさらに微細なプラスチック粒子(ナノプラスチック)は、細胞壁を通過して体内の組織や臓器にまで到達する可能性も指摘されていますが、これについてはまだ研究途上の段階です。
  • 化学物質の溶出と体内への吸収: プラスチック製品には、その製造過程でさまざまな化学添加剤(可塑剤、難燃剤、紫外線吸収剤など)が使用されています。これらの化学物質が、体内でマイクロプラスチックから溶け出し、吸収されることで、内分泌かく乱作用(環境ホルモン作用)やその他の健康影響を引き起こすのではないかという懸念があります。また、前述の通り、海洋で吸着した有害化学物質が体内に取り込まれるリスクも考えられます。
  • 腸内フローラへの影響: 近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが健康に大きく関わっていることが分かってきていますが、マイクロプラスチックの摂取がこの腸内フローラに何らかの影響を与える可能性も研究対象となっています。

4. 私たちの洗濯がどれだけマイクロプラスチックを排出しているのか 現状と課題

私たちが毎日何気なく行っている洗濯が、実はマイクロプラスチック汚染の大きな原因の一つとなっていることをご存知でしょうか。この章では、洗濯によってどれだけのマイクロプラスチックが排出されているのか、国内外の研究データをもとに現状を明らかにし、日本国内での対策状況と今後の課題について詳しく解説します。

4.1 国内外の研究データから見る排出量の実態

洗濯時に衣類から抜け落ちる微細な化学繊維、いわゆるマイクロファイバーは、マイクロプラスチックの主要な発生源の一つです。その排出量は、衣類の素材や洗濯条件によって大きく異なります。

国際自然保護連合(IUCN)が2017年に発表した報告書「Primary Microplastics in the Oceans: a Global Evaluation of Sources」によると、海洋に流出するマイクロプラスチックのうち、実に35%が合成繊維衣料の洗濯によるものだと推定されています。これは、タイヤの粉塵(28%)や都市の粉塵(24%)を上回る最大の汚染源であり、私たちの日常生活がいかに深く関わっているかを示しています。

具体的な排出量については、以下のような研究報告があります。

  • 英国プリマス大学の研究者Napper氏とThompson氏が2016年に発表した論文(Marine Pollution Bulletin誌掲載)では、ポリエステル製のフリースジャケット1枚を1回の洗濯で、最大で約70万本ものマイクロファイバーが放出される可能性が示されました。アクリル素材の場合はさらに多く、ナイロン素材も同様に多くの繊維を放出します。
  • 洗濯物の量や洗濯機の種類(縦型かドラム式かなど)、洗剤の種類、水温、脱水時の回転数なども排出量に影響を与えることが分かっています。例えば、洗濯物の量が多いほど、また水流が強いほど繊維の脱落が増える傾向にあります。

以下の表は、一般的な化学繊維の種類と、洗濯によるマイクロプラスチック排出のしやすさの目安をまとめたものです(排出量は洗濯条件により変動するため、あくまで相対的な目安です)。

化学繊維の種類 主な用途 マイクロプラスチック排出のしやすさ(相対的)
ポリエステル フリース、スポーツウェア、一般的な衣類 高い
アクリル セーター、ニット、毛布 非常に高い
ナイロン ストッキング、アウトドアウェア、水着 高い
ポリウレタン(スパンデックス) ストレッチ素材、インナーウェア、スポーツウェア 中程度

これらのデータは、私たちが普段着用している衣類の多くが、洗濯のたびにマイクロプラスチックを環境中に排出しているという厳しい現実を突きつけています。特にファストファッションの普及により、安価な化学繊維製品が増加し、その消費と廃棄のサイクルが早まっていることも、問題を深刻化させる一因と考えられます。

4.2 日本国内での対策状況と今後の課題

日本国内においても、洗濯由来のマイクロプラスチック問題に対する認識は徐々に高まりつつありますが、対策はまだ道半ばです。

環境省はマイクロプラスチックに関する調査研究を進めており、その中には洗濯排水からのマイクロプラスチック排出実態調査も含まれています。多くの下水処理場では、一定量のマイクロプラスチックを除去できるものの、全ての微細な繊維を捕捉しきれていないのが現状です。環境省の調査によれば、下水処理プロセスで多くのマイクロプラスチックが除去されるものの、一部は処理水を通過して環境へ排出されることが確認されています。除去されなかったマイクロプラスチックは、河川を通じて最終的に海洋へと流出していると考えられています。

国内の具体的な対策状況としては、以下のような動きが見られます。

  • 洗濯機メーカーの取り組み:一部のメーカーでは、洗濯機に内蔵するフィルターの改良や、洗濯時に使用する専用のマイクロファイバー回収フィルター(外付け型など)の開発・販売が進められています。しかし、標準装備化されている機種はまだ少なく、その効果や普及には時間がかかると見られています。
  • アパレル業界の動き:サステナビリティ(持続可能性)への関心が高い一部の企業では、環境負荷の少ない素材(リサイクル素材や生分解性素材など)の開発や採用、消費者に向けた適切な洗濯方法の情報提供などが行われています。しかし、業界全体としての抜本的な対策はまだ十分とは言えません。
  • 研究機関や自治体の調査・啓発:国内の研究機関による排出実態のより詳細な調査や、一部自治体による市民への啓発活動(パンフレット配布やセミナー開催など)が行われています。

しかし、日本国内での対策には多くの課題も残されています。

  • 排出量の正確な把握と基準値の設定:国内における洗濯由来マイクロプラスチックの総排出量や、環境中での動態、生態系への影響に関する科学的知見の集積がさらに必要です。また、排出抑制に関する具体的な目標値や法的な基準値の設定は今後の大きな課題です。
  • 法規制の検討:フランスなど一部の国では、2025年から新品の洗濯機へのマイクロプラスチックフィルター設置を義務付ける法律が制定されるなど、法規制の動きがあります。日本ではまだ具体的な法規制はありませんが、国際的な動向を踏まえた検討が求められます。
  • 消費者への認知度向上と行動変容:問題の深刻さや具体的な対策方法について、一般消費者への認知度はまだ低いのが現状です。ライフスタイルの見直しを含めた積極的な行動変容を促すための効果的な情報提供と啓発活動が求められます。
  • 技術開発と社会システムへの実装:より効果的で安価な回収技術の開発や、それを社会システムとして普及させるためのインセンティブ設計やインフラ整備が必要です。

5. 今日からできる!洗濯によるマイクロプラスチック問題の簡単な防止策

私たちの日常生活に欠かせない洗濯。しかし、その洗濯がマイクロプラスチック汚染の一因となっていることをご存知でしょうか。ここでは、特別な道具や費用をかけずに、今日からすぐに取り組める簡単な防止策を具体的にご紹介します。小さな工夫の積み重ねが、環境への負荷を減らす大きな一歩となります。

5.1 洗濯方法の見直しでマイクロプラスチックを減らす

毎日の洗濯習慣を少し見直すだけで、衣類からのマイクロプラスチックの排出量を効果的に抑えることができます。

5.1.1 洗濯の頻度を考える

衣類は洗濯するたびに繊維が摩擦し、マイクロプラスチックが抜け落ちやすくなります。本当に洗濯が必要かを見極め、洗濯の回数自体を減らすことが、最も基本的な対策の一つです。例えば、一度着用しただけですぐに汚れていないタオルやパジャマ、アウターなどは、毎回洗わずに数回着用してから洗濯することを検討しましょう。また、汚れがひどくないものはまとめて洗うことで、洗濯機の稼働回数を減らすことにも繋がります。

5.1.2 洗濯ネットの正しい使い方と選び方

洗濯ネットの使用は、衣類同士の絡まりや摩擦を防ぎ、繊維の損傷を軽減する効果があります。特に、化学繊維の衣類やデリケートな素材のものは、洗濯ネットに入れることを習慣にしましょう。

洗濯ネットを選ぶ際と使用する際のポイントを以下にまとめました。

ポイント 詳細 理由
選び方:目の細かさ できるだけ目の細かい洗濯ネットを選びましょう。 目が粗いと、抜け落ちたマイクロプラスチックがネットを通り抜けてしまう可能性があります。
選び方:サイズ 衣類の大きさに合ったサイズのネットを選びます。 大きすぎるとネットの中で衣類が動きすぎてしまい、摩擦が起きます。小さすぎると汚れ落ちが悪くなることがあります。
使い方:衣類の量 ネットの容量の2/3程度を目安に衣類を入れ、詰め込みすぎないようにします。 詰め込みすぎると、洗浄力が低下するだけでなく、衣類同士が強く擦れ合い、かえって繊維の脱落を促進する可能性があります。
使い方:畳み方 衣類は軽く畳んでからネットに入れます。 衣類がネットの中で大きく動くのを防ぎ、型崩れや過度な摩擦を抑えます。

これらのポイントを意識して洗濯ネットを活用することで、マイクロプラスチックの排出抑制に貢献できます。

5.1.3 洗濯機のフィルターを活用する

洗濯機には、糸くずやゴミをキャッチするためのフィルター(糸くずフィルター、リントフィルターなどと呼ばれます)が備わっています。このフィルターは、抜け落ちた繊維の一部を捕捉する役割も果たしています。フィルターに溜まったゴミはこまめに取り除き、清潔に保つことが重要です。フィルターが目詰まりしていると、捕捉機能が低下するだけでなく、洗濯効率も悪くなります。

さらに、近年では洗濯排水中のマイクロプラスチックをより効果的に回収するための外付けフィルターや、洗濯槽内に投入するタイプの専用グッズも市販されています。こうした製品の利用も検討してみると良いでしょう。例えば、洗濯機メーカーの中には、マイクロプラスチックの排出を抑制するフィルター技術の開発を進めているところもあります。

5.1.4 液体洗剤の利用と適切な量

洗剤の種類も、マイクロプラスチックの発生量に影響を与える可能性があります。一般的に、粉末洗剤よりも液体洗剤の方が、衣類への物理的な摩擦が少ないとされています。粉末洗剤に含まれる研磨剤や、溶け残りによる摩擦が繊維を傷つける一因となることがあるためです。可能であれば、液体洗剤、特に中性の液体洗剤を選ぶと、衣類へのダメージをより抑えることができます。

また、洗剤の量も重要です。洗剤を多く入れすぎても洗浄力が比例して上がるわけではなく、むしろ衣類への負担を増やし、すすぎ残しの原因にもなります。洗剤のパッケージに記載されている使用量を守り、適切に使うことを心がけましょう。

5.1.5 低温・短時間での洗濯を心がける

洗濯時の水温や洗濯時間も、衣類の繊維に影響を与えます。高温での洗濯や長時間の洗濯は、繊維を傷めやすく、マイクロプラスチックの発生を促進する可能性があります。汚れの程度に応じて、できるだけ低温(常温水など)で、かつ短時間(スピードコースやお急ぎコースなど)で洗濯することを心がけましょう。特にデリケートな衣類や化学繊維の衣類は、この点を意識することが大切です。ただし、汚れ落ちとのバランスも考慮し、無理のない範囲で取り組むことが長続きのコツです。

5.2 マイクロプラスチックを排出しにくい衣類の選び方

洗濯方法の工夫と合わせて、衣類を購入する段階からマイクロプラスチック問題に配慮することも重要です。

5.2.1 天然繊維(綿、麻、ウールなど)を選ぶメリット

マイクロプラスチックは主に化学繊維(合成繊維)から発生します。そのため、衣類を選ぶ際には、綿(コットン)、麻(リネン)、毛(ウール)、絹(シルク)といった天然繊維でできた製品を積極的に選ぶことが、根本的な対策の一つとなります。天然繊維は、仮に洗濯で繊維が抜け落ちたとしても、自然界で生分解されやすいため、マイクロプラスチック汚染には直接つながりにくいとされています。それぞれの素材には以下のような特徴があります。

  • 綿(コットン): 吸湿性・通気性に優れ、肌触りが良い。比較的安価で手に入りやすい。
  • 麻(リネン):丈夫で吸水性・速乾性が高く、夏物衣料に適している。独特のシャリ感がある。
  • 毛(ウール): 保温性・吸湿性に優れ、冬物衣料に多く使われる。弾力性があり、シワになりにくい。
  • 絹(シルク): 光沢があり、滑らかで肌触りが良い。吸湿性・放湿性に優れるが、デリケートな素材。

オーガニックコットンなど、栽培方法にも環境負荷の少ないものが注目されています。

5.2.2 衣類の品質表示を確認する習慣

衣類を購入する際には、必ず品質表示タグ(洗濯表示が付いているタグ)を確認し、どのような素材で作られているかを見る習慣をつけましょう。ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタンといった化学繊維の割合が高い衣類は、洗濯時にマイクロプラスチックを排出しやすい傾向にあります。素材構成を把握することで、天然繊維の製品を選んだり、化学繊維が多い場合は特に丁寧な洗濯を心がけたりするなどの意識につながります。環境省のウェブサイトなどでも、マイクロプラスチックに関する情報提供がなされていますので、参考にすると良いでしょう。例えば、環境省の海洋ごみ対策のページでは、プラスチックごみ問題全般に関する情報が得られます。

5.3 洗濯以外でできること 日常生活での工夫

洗濯に直接関連しなくても、私たちの日常生活の中でマイクロプラスチックの排出削減に貢献できることがあります。

5.3.1 マイクロファイバークロスなどの使用を控える

掃除用品として便利なマイクロファイバークロスやモップも、その多くがポリエステルやナイロンなどの化学繊維で作られています。これらを使用したり洗濯したりする過程で、マイクロプラスチックが環境中に放出される可能性があります。可能な範囲で、綿やセルロース(植物由来)といった天然素材のふきんや雑巾に切り替えることを検討してみましょう。例えば、東京都環境局もマイクロファイバー製品からのマイクロプラスチック発生について注意喚起をしています。

5.3.2 プラスチック製品全体の削減意識を持つ

洗濯によるマイクロプラスチック問題は、より大きなプラスチックごみ問題の一部です。日常生活全体でプラスチック製品の使用量そのものを見直し、削減していく意識を持つことが根本的な解決に繋がります。例えば、マイボトルの利用、エコバッグの携帯、過剰包装を断る、使い捨てプラスチック製品の使用を控えるなど、できることから少しずつ取り組んでいきましょう。プラスチックの使用を減らすライフスタイルは、巡り巡って洗濯から出るマイクロプラスチック問題の解決にも貢献します。

6. 企業や行政の取り組み 洗濯によるマイクロプラスチック問題解決への道

洗濯時に排出されるマイクロプラスチックの問題は、個人の努力だけでは解決が難しい側面も持っています。この問題に対し、企業や行政はどのような対策を講じ、解決への道を模索しているのでしょうか。ここでは、洗濯機メーカー、アパレル業界、そして政府や自治体の具体的な取り組みについて詳しく見ていきます。

6.1 洗濯機メーカーの技術開発動向

家庭での洗濯がマイクロプラスチック発生源の一つであるとの認識が広まるにつれ、洗濯機メーカー各社は排出量を削減するための技術開発に力を入れています。主な取り組みは以下の通りです。

  • マイクロプラスチック回収フィルターの開発・搭載: 洗濯排水からマイクロプラスチックを物理的に取り除くためのフィルター技術が注目されています。洗濯機本体に内蔵するタイプや、既存の洗濯機に取り付け可能な外付けタイプのフィルター開発が進められています。例えば、パナソニックや日立、東芝といった大手家電メーカーは、フィルター性能の向上やメンテナンスの容易さを追求した製品開発に取り組んでいます。
  • 洗濯コースの最適化: 衣類へのダメージを抑え、繊維の脱落を少なくする洗濯コースの開発も進んでいます。具体的には、水流や回転数を調整したり、すすぎの回数を最適化したりすることで、マイクロプラスチックの発生を抑制しようというアプローチです。
  • 国際標準化への動き: マイクロプラスチックの排出量測定方法や削減効果の評価方法について、国際的な標準化に向けた議論も始まっています。これにより、各メーカーの技術開発が公平に評価され、消費者も製品を選びやすくなることが期待されます。

これらの技術開発はまだ途上にありますが、将来的にはより効果的にマイクロプラスチックを捕捉・削減できる洗濯機が登場することが期待されています。

6.2 アパレル業界のサステナブルな取り組み

衣類そのものがマイクロプラスチックの発生源となるため、アパレル業界の役割も非常に重要です。多くの企業が、環境負荷の低減と持続可能な製品開発を目指し、以下のような取り組みを進めています。

  • マイクロプラスチックが抜けにくい素材の開発・採用: ポリエステルやナイロンなどの化学繊維でも、繊維の構造や織り方、加工方法を工夫することで、洗濯時の繊維の脱落を抑える研究が進められています。例えば、繊維の毛羽立ちを抑える加工や、より強度の高い糸を使用するなどの試みがあります。
  • 天然繊維や生分解性繊維への注目: 綿や麻、ウールといった天然繊維は、マイクロプラスチックを排出しません。これらの素材の利用を推進する動きに加え、海洋などで分解されやすい生分解性を持つ化学繊維の開発も進められています。
  • リサイクル素材の活用と課題への対応: ペットボトルなどをリサイクルして作られる再生ポリエステルは、資源の有効活用という点で評価されていますが、バージンポリエステルと同様にマイクロプラスチックを排出する可能性があります。そのため、リサイクル素材を使用しつつ、繊維の脱落を抑える技術開発も並行して行われています。
  • 消費者への情報提供と啓発: 製品の素材情報だけでなく、適切な洗濯方法や衣類の選び方について、消費者へ積極的に情報を提供する企業も増えています。タグやウェブサイトを通じて、マイクロプラスチック問題への意識向上を促す取り組みです。
  • サプライチェーン全体での排出削減: 製造過程におけるマイクロプラスチック排出量の把握と削減努力も、一部の先進的な企業で見られます。

アパレル業界では、デザイン性や機能性を維持しつつ、環境への配慮を両立させるための模索が続いています。

6.3 政府や自治体の規制と啓発活動

マイクロプラスチック問題は地球規模の課題であり、政府や自治体も対策に乗り出しています。法規制、調査研究、そして国民への啓発活動が主な柱です。

日本政府は、2019年に策定された「プラスチック資源循環戦略」の中で、海洋プラスチックごみ対策の一つとしてマイクロプラスチック問題にも言及しています。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。

取り組み主体 主な活動内容 関連情報・資料(例)
環境省 海洋プラスチックごみ問題全般の対策、マイクロプラスチックの実態調査・研究、国際協力の推進、国民や事業者への情報提供・普及啓発。 プラスチック資源循環戦略の策定について
プラスチック資源循環(特設サイト)
経済産業省 代替素材の開発支援、リサイクル技術の開発促進、繊維産業や洗濯機産業における技術開発支援、国際標準化への対応。 (関連する産業政策や技術開発支援プログラム)
地方自治体 地域住民への啓発活動(セミナー開催、パンフレット配布など)、下水処理施設におけるマイクロプラスチック除去技術の導入検討(一部)、地域の実情に応じたプラスチック削減策の推進。 (各自治体の環境関連ウェブサイトや広報誌)

現時点では、洗濯によるマイクロプラスチック排出を直接的に規制する法律は日本国内にはありません。しかし、プラスチックごみ全体の削減に向けた取り組みの中で、間接的にこの問題への対応が進められています。例えば、プラスチック製買物袋の有料化や、ワンウェイプラスチックの使用削減などが挙げられます。

また、国民一人ひとりの意識を高め、ライフスタイル変革を促すための啓発活動も重要視されています。政府や自治体は、ウェブサイトやイベントを通じて、マイクロプラスチック問題の現状や対策について情報発信を行っています。

これらの企業や行政の取り組みは、それぞれが連携し、補完し合うことで、より大きな効果を発揮することが期待されます。私たち消費者も、こうした動きに関心を持ち、日々の選択を通じて問題解決に貢献していくことが求められています。

7. まとめ

私たちの衣類からの洗濯排水が、マイクロプラスチック汚染の大きな原因の一つです。化学繊維から発生するマイクロプラスチックは、海洋環境や生態系、そして巡り巡って私たちの健康にも影響を与える可能性があります。しかし、洗濯の頻度を見直したり、洗濯ネットを正しく使ったり、天然繊維の衣類を選んだりすることで、排出量を減らすことができます。今日からできる小さな行動が、深刻な問題解決への大きな一歩となるのです。