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実はエコ素材!キュプラの全知識|メリット・デメリットまで解説

実はエコ素材!キュプラの全知識|メリット・デメリットまで解説

キュプラは、綿花の未利用部分であるうぶ毛を原料とした、シルクのような光沢と肌触りが特徴の再生繊維で、実は環境に優しいエコ素材です。この記事を読めば、キュプラの優れた吸湿性などのメリットから、水に弱いといったデメリット、コットンやレーヨンとの違いが明確に分かります。スーツの裏地といった主な用途から家庭でのお手入れのコツまで、キュプラの全てを網羅的に解説します。

1. キュプラとは綿花から生まれた再生繊維

高級なスーツやコートを手に取ったとき、その滑らかな裏地に「キュプラ」という表示を見たことはありませんか?キュプラは、そのシルクのような光沢と肌触りから、多くの衣類に採用されている素材です。しかし、その正体は意外にも「綿(コットン)」から作られています。キュプラは、天然素材である綿を原料としながらも、一度化学的に溶かして繊維として生まれ変わらせた「再生繊維」の一種なのです。この章では、そんなキュプラが一体どのような素材なのか、その定義から原料、製造方法までを詳しく掘り下げていきます。

1.1 「キュプラは綿花の一部を溶かして糸状に成形した再生繊維」をわかりやすく解説

「キュプラは綿花の一部を溶かして糸状に成形した再生繊維」という言葉は、キュプラのすべてを的確に表していますが、少し専門的で難しく感じるかもしれません。この言葉を一つひとつ分解して、わかりやすく解説します。

  • 「綿花の一部」とは?
    これは、綿の種子の周りに生えている、ごく短い「うぶ毛」の部分を指します。通常、衣類用の綿糸には使われないこの部分を原料としています。
  • 「溶かして」とは?
    採取した綿のうぶ毛を、酸化銅アンモニア溶液(キュプラアンモニウム溶液)という特殊な薬品で化学的に溶かし、ドロドロの液体状にします。
  • 「糸状に成形した」とは?
    溶かした液体を、シャワーの口のような非常に細い穴がたくさん開いたノズルから押し出します。押し出された液体は、化学反応によって再び固まり、連続した長い繊維、つまり「糸」になります。
  • 「再生繊維」とは?
    このように、もともと繊維であった天然の植物(綿のうぶ毛)を一度完全に液体まで溶かし、再び繊維として「再生」させて作ることから、再生繊維と呼ばれています。

つまりキュプラは、天然素材のDNAを持ちながら、人の手が加わることで新たな特性を持つ繊維へと生まれ変わった、ハイブリッドな素材と言うことができます。

1.2 原料は綿のうぶ毛「コットンリンター」

キュプラの原料となるのは、綿花の種子に付着している「コットンリンター」と呼ばれる、長さが2〜6mm程度の非常に短い繊維です。

私たちが普段「綿(コットン)」として親しんでいるTシャツやタオルは、綿花から採取される長い繊維(コットンリント)から作られています。コットンリンターは、この長い繊維を収穫した後に種子に残る、いわば「綿のうぶ毛」。短すぎるため、そのまま紡績して糸にすることは困難です。

これまで多くが未利用資源とされてきたこのコットンリンターを有効活用して作られるのがキュプラです。本来であれば活用されにくかった部分をアップサイクルすることで、新たな価値を生み出している、環境に配慮したサステナブルな素材でもあるのです。日本が世界に誇る繊維メーカーである旭化成の「ベンベルグ」は、このコットンリンターを100%原料とするキュプラの代表的なブランドとして世界的に知られています。

1.3 なぜ再生繊維と呼ばれるのか

繊維は、その原料や製造方法によって大きく分類されます。キュプラがなぜ「再生繊維」と呼ばれるのかを理解するために、繊維全体の分類を見てみましょう。

繊維はまず、自然界に存在するものをそのまま利用する「天然繊維」と、人の手によって化学的・人工的に作られる「化学繊維」に大別されます。そして、化学繊維はさらに3つに分類されます。

繊維の分類
大分類 中分類 小分類 代表的な繊維の例
天然繊維 (原料が天然) 植物繊維 綿(コットン)、麻(リネン)
動物繊維 絹(シルク)、羊毛(ウール)
化学繊維 再生繊維 (天然高分子を再生) キュプラ、レーヨン、リヨセル
半合成繊維 (天然高分子に化学反応) アセテート、トリアセテート
合成繊維 (石油などを合成) ポリエステル、ナイロン、アクリル

上の表が示すように、キュプラは「化学繊維」の中の「再生繊維」に位置します。

原料は綿(コットンリンター)という天然の植物に含まれる「セルロース」ですが、これを一度化学薬品で溶かし、再び繊維の形に「再生」して製造されるため、再生繊維に分類されるのです。石油を原料として純粋に化学合成して作られるポリエステルやナイロンなどの「合成繊維」とは、根本的に成り立ちが異なります。

2. キュプラが持つ8つのメリット

キュプラは、その成り立ちから多くの優れた特性を持っています。高級スーツの裏地から機能性インナーまで幅広く採用される理由は、これからご紹介する8つのメリットに集約されています。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

2.1 メリット1 優れた吸湿性と放湿性で蒸れにくい

キュプラの最大の特長の一つが、水分の吸収・放出能力の高さです。繊維の断面が円形で、内部に微細な隙間が多いため、湿気を素早く吸い取り、そして空気中に放出します。これにより、衣服内の環境を快適に保つことができます。

例えば、汗をかいても肌にまとわりつく不快感が少なく、常にサラッとした着心地を維持します。この特性は、季節を問わず活躍します。夏は汗による蒸れを防ぎ涼やかに、冬は暖房の効いた室内での蒸れを抑えつつ、繊維に含まれる水分が体温で温められることで、適度な暖かさを感じさせてくれます。

主な繊維の公定水分率(吸湿性の目安)
繊維の種類 公定水分率 特徴
キュプラ 11.0% 非常に高い吸湿性を持ち、蒸れにくい。
綿(コットン) 8.5% 吸湿性は高いが、乾きにくい。
絹(シルク) 11.0% キュプラと同等の高い吸湿性を持つ。
ポリエステル 0.4% ほとんど水分を吸わないため、速乾性はあるが蒸れやすい。

2.2 メリット2 静電気が起きにくく快適

乾燥する季節に悩まされる静電気。キュプラは繊維自体が多くの水分を含むため、静電気が起こりにくいという大きなメリットがあります。電気を自然に空気中へ逃がす性質があるため、不快な「パチパチ」感を大幅に軽減します。

この性質により、静電気が原因で起こるホコリや花粉の付着も抑えられます。また、スカートやワンピースの裏地に使われることで、脚へのまとわりつきを防ぎ、美しいシルエットを保ちながら快適に過ごすことができます。

2.3 メリット3 シルクのような滑らかな肌触り

キュプラの繊維は、断面が限りなく真円に近く、表面が非常に滑らかです。そのため、肌への摩擦が極めて少なく、まるでシルクのような、うっとりするほど滑らかな肌触りを実現します。チクチクとした刺激がないため、敏感肌の方やデリケートな肌を持つ方でも安心して着用できる素材です。

この滑らかさは、袖通しの良さにも繋がります。スーツやジャケットに袖を通す際、スッと滑るように着られるのは、裏地に高品質なキュプラが使われている証拠です。着脱の際のストレスを軽減し、上質な着心地を提供します。

2.4 メリット4 上品な光沢と美しいドレープ性

キュプラは、その滑らかな繊維表面が光を美しく反射し、品のある優雅な光沢を生み出します。派手すぎず、控えめながらも深みのある輝きは、衣服全体に高級感を与えてくれます。

また、繊維がしなやかで柔らかいため、美しいドレープ性(布が自然に垂れ下がる様子)も魅力です。体の動きに合わせてしなやかに揺れ動き、エレガントなシルエットを演出します。ブラウスやワンピース、スカートなどに使用すると、そのドレープ性が際立ち、女性らしい優美なラインを描き出します。

2.5 メリット5 染色性が良く鮮やかな色が出せる

キュプラは繊維の内部まで染料が均一に浸透しやすいため、非常に染色性に優れています。これにより、深みのある濃色から淡く繊細なパステルカラー、そしてビビッドで鮮やかな色まで、思い通りの色を美しく表現することが可能です。

色落ちや色褪せがしにくいという特徴もあり、長く美しい色合いを保つことができます。デザイナーの意図する色彩を忠実に再現できるため、ファッションの世界で重宝される素材の一つとなっています。

2.6 メリット6 熱に強い

キュプラはセルロースから作られた繊維であるため、比較的熱に強いという性質を持っています。ポリエステルなどの化学繊維と比較して高温に耐えることができるため、アイロンがけがしやすい点は嬉しいポイントです。ただし、水に弱いというデメリットもあるため、アイロンをかける際は当て布を使用し、スチームの量に注意するなど、洗濯表示に従った適切な温度設定が重要です。

2.7 メリット7 生分解性があり環境にやさしい

キュプラは、自然環境下で微生物によって分解される「生分解性」を持つ、地球にやさしいエコ素材です。原料が天然由来のコットンリンターであるため、土に埋めると最終的には水と二酸化炭素に分解され、自然に還ります。石油を原料とする化学繊維のように、マイクロプラスチックとして環境中に残留する心配がありません。

サステナビリティやSDGsへの関心が高まる現代において、キュプラは環境負荷の少ない素材として、その価値が再評価されています。

2.8 メリット8 日本の技術が詰まった代表ブランド「ベンベルグ」

世界で唯一、キュプラを商業生産しているのが、日本の化学メーカーである旭化成です。そのブランド名が「ベンベルグ」として世界的に知られています。つまり、私たちが手にするキュプラ製品のほとんどは、日本の高い技術力によって生み出されているのです。

旭化成のベンベルグは、長年にわたる研究開発によって品質が磨かれ、環境に配慮した製造プロセスも確立されています。その高い品質と信頼性から、国内外の高級ブランドのスーツやコートの裏地として指名されることも少なくありません。この「日本製」という背景も、キュプラが持つ大きな価値であり、メリットと言えるでしょう。

3. 知っておくべきキュプラの3つのデメリット

多くの優れた特性を持つキュプラですが、その繊細さゆえに知っておくべきデメリットも存在します。購入後やお手入れの際に後悔しないよう、事前に3つの注意点をしっかりと把握しておきましょう。

3.1 デメリット1 水に弱く濡れると強度が落ちる

キュプラの最大のデメリットは、水に弱いことです。優れた吸湿性を持つ反面、水分を含むと繊維が膨らみ、繊維同士の結びつきが弱まる性質があります。これにより、濡れた状態での強度は乾燥時の半分程度まで低下してしまいます。

そのため、洗濯機で他の衣類と一緒に強い力で洗ってしまうと、生地が傷んだり、型崩れや縮み、最悪の場合は破れてしまったりする原因となります。特に、縫い目など力がかかりやすい部分は注意が必要です。この水に弱いという性質が、後述するシワのつきやすさにも繋がっています。

3.2 デメリット2 シワになりやすくお手入れに注意が必要

キュプラは、水に濡れた状態で力が加わるとシワになりやすい素材です。特に、洗濯後に脱水したまま放置すると、細かく頑固なシワがつきやすいため注意が必要です。一度ついてしまったシワは、アイロンを使わないとなかなか取れません。

この特性は、同じ再生繊維であるレーヨンほどではありませんが、原料である綿(コットン)と比較すると顕著です。美しいドレープ性を保つためにも、洗濯時の脱水時間や干し方、アイロンがけに少し手間をかける必要があります。

3.3 デメリット3 摩擦に弱く毛羽立ちやすい

シルクのような滑らかな肌触りはキュプラの大きな魅力ですが、その繊細な繊維は摩擦に弱いという側面も持っています。着用中に強い摩擦が加わると表面が毛羽立ち、ピリング(毛玉)が発生することがあります。

例えば、ショルダーバッグが常に当たる肩や脇の部分、椅子に座ることで摩擦が起きやすいお尻や太ももの部分は特に毛羽立ちやすい箇所です。また、洗濯時に他の衣類と強く擦れ合うことも生地を傷める原因になります。お気に入りの一着を長く愛用するためには、連続での着用を避けて衣類を休ませたり、洗濯ネットを使用したりするなどの配慮が求められます。

これらのデメリットを一覧でまとめると、以下のようになります。

デメリットの種類 主な原因 特に注意すべき点
水に弱く強度が落ちる 水分による繊維の膨潤 濡れた状態での強い引っ張りや洗濯機での通常洗い
シワになりやすい 水分を含んだ状態での圧力 洗濯後の長時間放置、強すぎる脱水
摩擦に弱く毛羽立ちやすい 繊維が細く繊細なため バッグなどによる擦れ、連続着用、洗濯時の摩擦

これらのデメリットは、キュプラが天然素材由来のデリケートな繊維である証拠とも言えます。特性を正しく理解し、適切にお手入れすることで、キュプラならではの美しさや快適さを長く楽しむことができます。

4. キュプラはどんな服に使われている?主な用途を紹介

キュプラは、その優れた機能性とシルクのような美しい見た目から、様々な衣料品に活用されています。特に、肌に直接触れるアイテムや、着心地の良さ、シルエットの美しさが求められる衣服でその真価を発揮します。ここでは、キュプラがどのような服に使われているのか、代表的な用途を3つご紹介します。

4.1 スーツやジャケットコートの裏地

キュプラの最も代表的な用途が、スーツやジャケット、コートなどの裏地です。高級な紳士服や婦人服の裏地を見ると、品質表示に「キュプラ100%」と記載されていることがよくあります。これは、キュプラが裏地に最適な特性をいくつも兼ね備えているためです。

最大の理由は、他の繊維にはない抜群の滑りの良さです。袖を通す際のすべりが非常に滑らかなため、着脱がスムーズになり、ストレスを感じさせません。また、表地との摩擦が少ないため、衣服の美しいシルエットを崩さず、型崩れを防ぐ効果もあります。

さらに、吸湿性と放湿性に優れているため、汗をかいても蒸れにくく、衣服内を快適な状態に保ちます。特に冬場に気になる静電気が起きにくいのも大きなメリットで、不快なまとわりつきや「バチッ」とくる衝撃を大幅に軽減してくれます。こうした機能性の高さから、旭化成の「ベンベルグ」に代表される高品質なキュプラは、一流ブランドのスーツやコートの裏地として長年採用され続けています。

4.2 ブラウスやワンピースなどの婦人服

キュプラの持つ上品な光沢と、しなやかで美しいドレープ性は、婦人服のデザインをより一層引き立てます。特に、ブラウスやワンピース、スカートといったアイテムでその魅力が活かされています。

キュプラは、身体の動きに合わせて優雅に揺れる、とろみのある美しいシルエットを作り出します。このドレープ性は、エレガントで女性らしい雰囲気を演出するのに最適です。また、シルクを思わせるような深みのある自然な光沢は、製品に高級感を与え、フォーマルなシーンにもふさわしい一着に仕上げてくれます。

肌触りの良さも婦人服に採用される重要なポイントです。繊維の断面が丸く滑らかであるため、肌への刺激が少なく、敏感肌の方でも安心して着用できます。染色性にも優れており、鮮やかでありながら深みのある色合いを表現できるため、デザイナーの意図を忠実に再現した美しい衣類が生まれるのです。

4.3 機能性インナーやランジェリー

直接肌に触れるインナーウェアやランジェリーは、素材の機能性が着心地を大きく左右します。キュプラは「呼吸する繊維」とも呼ばれるほど吸湿性と放湿性に優れており、まさにインナーに最適な素材です。

汗を素早く吸い取って空気中に放出する機能により、夏は汗によるベタつきを抑えて涼しく、冬は汗冷えを防いで暖かく感じさせてくれます。この湿度コントロール機能が、一年を通して快適な着心地を実現します。肌着やステテコ、ペチコートなどに使われることで、上に着る衣服への汗じみを防ぎ、快適さを保つ役割も果たします。

また、繊維そのものが水分を多く含むため、静電気が起こりにくいという特性もインナーには欠かせません。乾燥した季節でも衣服のまとわりつきを防ぎ、快適な着心地をキープします。シルクのような滑らかな肌触りと合わせて、デリケートな肌に直接触れるランジェリーや機能性インナーの素材として、高く評価されています。

5. キュプラと他の繊維との違い

キュプラは、原料が綿(コットン)でありながら再生繊維に分類され、見た目や肌触りは絹(シルク)に似ているため、他の繊維との違いが分かりにくいと感じる方も多いでしょう。しかし、それぞれの繊維には明確な違いがあり、その特性を理解することで、より深く素材の魅力を知ることができます。

ここでは、特に混同されやすい「綿(コットン)」「レーヨン」「絹(シルク)」との違いを、それぞれの特徴を比較しながら詳しく解説します。

5.1 原料が同じ綿(コットン)との違い

キュプラと綿(コットン)は、どちらも「綿花」を原料としていますが、使われる部分と製造プロセスが全く異なります。そのため、繊維の性質や風合いも大きく変わってきます。

綿は、綿花から採れる長い繊維「コットンボール」を紡いで糸にします。これは古くから続く製法で、天然繊維そのものの風合いが活かされています。一方、キュプラは、綿花を収穫した後に残る、種の周りの短い繊維「コットンリンター」という、本来は廃棄されていた部分を原料にしています。このコットンリンターを一度薬品で溶かし、化学的な処理を経て糸として再生するため、化学繊維の中の「再生繊維」に分類されるのです。

この製造工程の違いにより、繊維の断面形状も異なります。綿繊維は天然のよじれがあり、断面がリボンのように平たく中空構造になっています。これが、綿特有のふっくらとした肌触りや吸水性の高さを生み出しています。対して、キュプラの繊維は断面が限りなく真円に近く、表面が非常に滑らかです。これが、シルクのような光沢感と、肌をすべるようななめらかな感触の源となっています。

キュプラと綿(コットン)の比較表
比較項目 キュプラ 綿(コットン)
原料 コットンリンター(綿花のうぶ毛) コットンボール(綿花の長い繊維)
分類 再生繊維(化学繊維) 天然繊維(植物繊維)
繊維の断面 真円に近く滑らか 平たく天然のよじれがある
肌触り 滑らかでしっとりしている ふんわり、さらっとしている
光沢 上品で深みのある光沢 ナチュラルで控えめな光沢
吸湿性・放湿性 吸湿性・放湿性ともに非常に高い 吸湿性は高いが、乾きにくい
濡れた時の強度 強度が低下する 強度が向上する
主な用途 スーツの裏地、ブラウス、ワンピース Tシャツ、タオル、下着、シャツ

5.2 同じ再生繊維のレーヨンとの違い

キュプラとレーヨンは、どちらも植物由来の原料を溶かして再生して作る「再生繊維」の仲間です。そのため性質が似ている点も多いですが、原料と製造方法の違いから、風合いや機能性に差が生まれます。

最大の違いは原料です。キュプラがコットンリンターを原料とするのに対し、レーヨンは主に木材パルプを原料としています。また、製造方法も異なり、キュプラが「銅アンモニア法」という方法で生産されるのに対し、一般的なレーヨン(ビスコースレーヨン)は「ビスコース法」で作られます。この製法の違いが、繊維の断面形状に影響を与えます。

キュプラの断面が真円であるのに対し、レーヨンの断面はギザギザとした形をしています。この形状の違いが、肌触りや光沢の差となって現れます。キュプラの方がより繊維の表面が滑らかで摩擦が少ないため、肌への刺激が少なく、より繊細で上品な光沢を持ちます。また、水に濡れると強度が落ちる点は共通していますが、キュプラの方がレーヨンよりも強度低下が少ないという特徴もあります。

キュプラとレーヨンの比較表
比較項目 キュプラ レーヨン
原料 コットンリンター(綿花のうぶ毛) 木材パルプ
製法 銅アンモニア法 ビスコース法(一般的)
繊維の断面 真円 ギザギザした形状
肌触り 非常に滑らかで、肌すべりが良い 滑らかだが、キュプラほどの繊細さはない
光沢 絹のような上品な光沢 キュプラより強い光沢感
ドレープ性 しなやかで美しい 優れている
濡れた時の強度 低下する(レーヨンよりは強い) 大幅に低下する
価格 比較的高価 比較的安価

5.3 高級素材の絹(シルク)との違い

キュプラは、その美しい光沢と滑らかな肌触りから「人工シルク」とも呼ばれることがありますが、原料や成分は全くの別物です。キュプラとシルクの最も大きな違いは、その由来にあります。

キュプラはコットンリンターを原料とする植物由来の「セルロース繊維」です。一方、シルクは蚕(かいこ)の繭から作られる動物由来の「タンパク質繊維」です。この成分の違いが、素材の特性や取り扱い方法に大きく影響します。

例えば、シルクはタンパク質でできているため、虫害に遭いやすく、紫外線で黄変しやすいというデリケートな側面があります。一方、セルロース繊維であるキュプラは虫害の心配がありません。肌触りも非常に似ていますが、シルクには「きしみ」と呼ばれる独特の摩擦感があり、光沢もより複雑で深みのある輝きを放ちます。価格面では、天然素材で生産量が限られるシルクの方が圧倒的に高価であり、キュプラはシルクの美しい風合いをより手軽に楽しむことができる素材と言えるでしょう。

キュプラと絹(シルク)の比較表
比較項目 キュプラ 絹(シルク)
原料 コットンリンター(植物由来) 蚕の繭(動物由来)
分類 再生繊維(化学繊維) 天然繊維(動物繊維)
主成分 セルロース タンパク質(フィブロイン)
肌触り 非常に滑らか 滑らかで、「きしみ」という独特の感触がある
光沢 上品で落ち着いた光沢 深みと気品のある独特の美しい光沢
取り扱いの注意点 水濡れ、摩擦、シワ 水濡れ、摩擦、紫外線による黄変、虫害
価格 シルクより安価 非常に高価

6. キュプラ製品を長持ちさせる洗濯とお手入れのコツ

シルクのような光沢と滑らかな肌触りが魅力のキュプラですが、その繊細さゆえにお手入れには少し注意が必要です。特に水に弱い性質を持つため、間違った洗濯方法は生地を傷め、風合いを損なう原因になりかねません。しかし、いくつかのポイントを押さえるだけで、ご家庭でも適切にケアし、お気に入りの一着を長く愛用することができます。ここでは、キュプラ製品の美しさを保つための洗濯とアイロンがけのコツを詳しく解説します。

6.1 まずは洗濯表示を確認

キュプラ製品のお手入れを始める前に、何よりもまず衣類についている洗濯表示(ケアラベル)を必ず確認してください。製品によっては、家庭での洗濯が禁止されているものや、特別なクリーニングが推奨されている場合があります。表示を無視したお手入れは、縮みや型崩れ、色落ちといった取り返しのつかないトラブルにつながります。

特に「家庭洗濯不可」や「ドライクリーニング推奨」の表示がある場合は、無理に自分で洗わず、信頼できるクリーニング店に相談しましょう。以下に、キュプラ製品でよく見られる洗濯表示の一部をまとめました。

洗濯表示マーク 意味
液温は40℃を限度とし、手洗いができる 液温は40℃を限度とし、手洗いができることを示します。多くのキュプラ製品でこの表示が見られます。
家庭での洗濯禁止 家庭での洗濯はできません。クリーニング店に依頼する必要があります。
底面温度110℃を限度としてスチームなしでアイロン仕上げができる 底面温度110℃を限度としてアイロンがけが可能です。スチームの使用は避けましょう。
塩素系及び酸素系の漂白剤の使用禁止 漂白剤は一切使用できません。変色や生地の劣化の原因となります。
石油系溶剤による弱いドライクリーニングができる クリーニング店で、石油系の溶剤を使った弱いドライクリーニングが可能です。

※上記画像は消費者庁のウェブサイトで公開されている「新しい洗濯表示」の記号です。

6.2 家庭で洗う場合はやさしく手洗いが基本

洗濯表示で「手洗い可」が確認できたら、家庭で洗濯することができます。キュプラは水に濡れると繊維の強度が一時的に低下するため、洗濯機ではなく、生地への負担が最も少ない手洗いが基本です。以下の手順で、やさしく丁寧に洗いましょう。

【準備するもの】

  • おしゃれ着用の中性洗剤(エマール、アクロンなど)
  • 洗面器や洗濯桶
  • きれいな水
  • 清潔なバスタオル

【手洗いの手順】

  1. 洗剤液を作る: 洗面器に30℃以下のぬるま湯を張り、規定量のおしゃれ着用中性洗剤を溶かします。熱いお湯は縮みの原因になるため、必ず水かぬるま湯を使用してください。
  2. やさしく洗う: 衣類を裏返して畳み、洗剤液に浸します。手のひらでやさしく押すように洗う「押し洗い」が最適です。20〜30回ほど、沈めたり浮かせたりを繰り返します。生地を傷める原因となるため、もみ洗いやこすり洗いは絶対に避けてください
  3. 丁寧にすすぐ: 洗剤液を捨て、きれいな水を張って同様に押し洗いの要領でやさしくすすぎます。水を2〜3回入れ替え、洗剤の泡が出なくなるまで繰り返します。洗剤が残ると、黄ばみや変色の原因になります。
  4. タオルで脱水する: すすぎが終わったら、衣類を軽く手で押さえて水気を切ります。雑巾のように絞ると繊維が傷み、頑固なシワがつくため厳禁です。清潔なバスタオルの上に衣類を広げ、もう一枚のタオルで挟むか、タオルを折りたたんで上からやさしく押さえ、水分を吸い取らせます(タオルドライ)。

どうしても洗濯機で脱水したい場合は、衣類を洗濯ネットに入れ、15秒〜30秒程度の極めて短い時間で設定してください。

6.3 シワを防ぐ干し方とアイロンがけのポイント

洗い終わった後の干し方とアイロンがけも、キュプラの美しい風合いを保つための重要な工程です。シワになりやすい性質を理解し、ひと手間加えることで仕上がりが格段に変わります。

【シワを防ぐ干し方】

  • すぐに干す: 脱水が終わったら、放置せずにすぐに取り出します。濡れたまま放置すると、シワや色移り、雑菌の繁殖の原因となります。
  • 形を整える: 干す前に、両手で軽く生地を挟んでパンパンと叩き、大きなシワを伸ばします。縫い目や襟、袖口などをやさしく引っ張り、全体の形を丁寧に整えましょう。
  • 日陰で干す: キュプラは紫外線に弱く、直射日光に当たると色褪せや生地の劣化を招きます。必ず風通しの良い場所で陰干ししてください
  • 適切なハンガーを選ぶ: ブラウスやワンピースなどは、肩のラインに合った厚みのあるハンガーにかけると型崩れを防げます。ワイヤーハンガーなどの細いものは跡がつきやすいため避けましょう。

【アイロンがけのポイント】

  • 温度設定と当て布は必須: 洗濯表示を確認し、アイロンの温度を「低」(110℃以下)に設定します。キュプラは熱に比較的強い繊維ですが、直接高温でアイロンをかけるとテカリや変質の原因になります。生地の保護とテカリ防止のため、必ず当て布を使用してください
  • 半乾きの状態でかける: 完全に乾ききる前の、少し湿り気が残った状態でアイロンをかけると、シワがスムーズに伸びやすくなります。乾いてしまった場合は、霧吹きで軽く湿らせてからかけましょう。
  • やさしく滑らせる: アイロンを強く押し付けず、生地の上をやさしく滑らせるようにかけます。スチームアイロンも有効ですが、生地から少し離して蒸気を当てるようにすると、よりふっくらと仕上がります。

7. まとめ

キュプラは、綿花のうぶ毛「コットンリンター」を原料に作られる再生繊維です。シルクのような光沢と滑らかな肌触りを持ちながら、吸湿性・放湿性に優れ蒸れにくいのが大きなメリットです。その特性からスーツの裏地やブラウスに最適ですが、水や摩擦に弱いデリケートな一面も。原料が天然由来で土に還る生分解性を持つため、環境にやさしいエコ素材でもあります。メリット・デメリットを理解し、適切なお手入れで上質な着心地を長く楽しみましょう。